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8年ぶりの改定を受けて~外務省日下部審議官と新開発協力大綱を読む~【アドボカシー】
8年ぶりの改定を受けて~外務省日下部審議官と新開発協力大綱を読む~【アドボカシー】
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開発協力大綱、8年ぶりの改定を受けて

2023年6月9日、日本のODA(政府開発援助)の最上位政策を定める「開発協力大綱」が改定されました。8年ぶりの改定を受け、「『開発協力大綱』ってどう変わったの?」「市民社会はどう関わってきたんだろう?」の大きく二つのテーマに分けて、新しい開発協力大綱の基本を理解するためのイベントを開催しました。

アーカイブ動画はこちら。

『開発協力大綱』ってどう変わったの?

本勉強会の前半では、外務省の主担当として本改定に携わった日下部英紀・外務省国際協力局審議官/NGO担当大使より、改定のポイントについて直接ご説明いただきました。当日投影いただいた資料を元に、簡単にご紹介したいと思います。

すべてのODA政策の方針を決める大綱

本大綱はすべてのODA政策の基礎となる重要なものです。ここに盛り込まれた内容が大きな方針となるため、開発協力の分野において協働するNGO側も大きな影響を受けます。

また日下部審議官は、「外務省が主導しているものの、最終的には閣議を経て決定されるものなので、政府全体が踏まえるべき大綱という位置づけとなる」ということを強調されていました。

日下部審議官より、改定のポイント解説

前回改定がなされた2015年時点と比べて、世界の状況が大きく変わってきている、ということを前提に改定がなされました。日下部審議官が提示くださった資料内では、特に変化の大きい部分が太字で記載されています。解説いただいた内容を簡単にご紹介したいと思います。

国際社会は歴史的転換期にあり、複合的危機に直面

  • 新型コロナのような危機は以前はまったく想像できなかった。
  • 気候変動の危機感もより強まっている。
  • 国際秩序の乱れ、不安定化による人道危機も増している。ロシア、中国、北朝鮮など、安全保障の観点からもリスクが高まっているといえる。

透明かつ公正なルールに基づく協調的な協力が求められている

  • これまで国際社会における援助のルールは、G7を始めとした先進国が中心となって定めてきた。しかしインドや東南アジアも借款を行う側に回るようになり、新興ドナーとなりつつある国を含めたルールがない状態。

多様なアクターとの連携新たな資金動員に向けた取り組みがより重要に

  • 途上国の経済成長という視点で見た場合には、従来型の援助だけでなく、民間企業による資金の流れも重要になってきている。投資や貿易が以前よりも成長に寄与するようになってきている。
  • NGOを含めた市民社会も、以前に比べて市民権を得てきている。
  • 携わるアクターの多様性や重要性が増してきている。

外交の最重要ツールの一つである開発協力を一層効果的・戦略的に活用する

  • ODAは外交の最重要ツールとしての位置づけであり、一層効果的に活用していく必要がある。様々な意見があるが、税金で行う以上は「外交の最重要ツール」という意識が必要である。
  • 国際益と国内益の両方を考えて行く必要があると考えている。国益を前面に出すのはどうなのかという意見がある一方で、税金なのだから国益のためにやるべきだ、国際益を考えている余裕はない、という意見も根強い。
  • 高齢化や少子化に加えて、経済成長が止まっているというのは日本の大きな課題。もちろん国内益のためだけに、とは言わないが、両方を見据えていく必要がある。

平和と繁栄への貢献非軍事的協力を堅持

  • 開発協力の世界においては非軍事というのがとても大切。

新しい時代の「人間の安全保障」

  • 以前緒方貞子さんが提唱して以降、世界的な潮流になり、日本においても柱となってきた。しかし近年は、個人に着目するだけでなく、社会を変えていくために連帯することが重要になってきている。そうした点を踏まえ、世界に準じる形で「ニュー人間の安全保障」を盛り込んでいる。

途上国との対話と協働を通じた社会的価値の共創

  • 「途上国」といっても様々な国があるが、全体を通して以前よりも対等な関係になってきているのでは、と考え「対等なパートナーシップ」という文言をしっかり書き込んだ。援助しておしまい、というような関係はすでに脱却していると考えている。

包摂性、透明性、公正性に基づく国際的ルール・指針の普及と実践の手動

  • 新興ドナーの国々が好き勝手に支援を行うのは望ましくなく、一定のルールは必要だと考えている。その点で、国際ルールに則るだけでなく、国際ルールをリードしていくような役割を担いたい。

新しい時代の「質の高い成長」と貧困撲滅

  • 持続的に成長していくために質の高い成長が大切。取り残される人がなるべく少ないように成長するべきだし、気候変動や債務の持続可能性も大切。

デジタル食料・エネルギー安全保障等の課題にも対応

  • 日本にとっても大切だが、途上国にとっても食やエネルギーの安全保障は重要。日本にとってもプラスになる。

平和・安全・安定した社会の実現、自由で開かれた国際秩序の維持・強化

  • 途上国における安全・安定は、質の高い成長の前提になっている。自由で開かれた国際秩序の維持・強化を目指している。

自由で開かれたインド太平洋(FOIP)のビジョンの下での取り組みを進める

  • FOIPが出てくるのはここ1か所のみ。市民社会との対話の中で、インド太平洋以外に支援しないと思われるのでは、などの意見が強く、「ビジョンの下で取り組みを進める」という形に落ち着いた。地域名が入ったのはここの1文のみ。地域別について書くのはやめようということで、大綱には入れていない。「インド太平洋」はあくまでもビジョンであり、地域として限るものではない。

複雑化・深刻化する地球規模課題への国際的取り組みの手動

  • 気候変動においても議論が進んでいる。防災や教育も大事なので、盛り込んでいる。またポストSDGsについても取り組んでいく必要がある旨をここで盛り込んだ。

ODAを進化させていくためのアプローチ

  • これまでと同じ形でODAをやっていくだけでなく、新しいアプローチが必要だと考えている。
    • 1つめは、「民間資金動員型」:途上国に流れるお金は、民間のお金が大きくなっていることから、投資などを強化していくと面白いのではと思っている。
    • 2つめは、オファー型の協力:これまでは途上国からやってくださいといわれてやるケースが多かった。これまでもプッシュ型のような支援はやってきたが、さらに一歩進んで、ODAと民間企業が組んでメニューを出し、働きかけるような形もやってみると面白いのではと思っている。どの案件が該当するかは現時点ではいえないが、強い意志を持ってやっていく予定。もちろんこれまで通り要請型もやっていく。
    • 3つめは、必要な制度をどんどん見直していく必要がある。昔は現金寄付が良くないといわれていたが、そういった風潮は薄れてきている。こうした変化に合わせて柔軟に対応できるようにしていく。

「債務の持続可能性」の原則

  • 新しく「債務の持続可能性」を入れた。特に途上国は中国の債務で苦しんでいることも多く、ルールに則ってやっていく必要性を感じている。日本はそのあたりをきちんとしますよ、ということを明示するために盛り込んでいる。

ジェンダー主流化を含むインクルーシブな社会促進・公正性の確保」の原則

  • ジェンダーという単語を使ったのは初めて。2015年時点で盛り込まれていなかったのは時代遅れでは、という意見もあるが、当時はそこまで議論がなされなかった。

GNI比0.7%の国際的目標を念頭に置く

  • 必ずしも達成している国ばかりではないが、国際的にはGNI比0.7%の目標が長く置かれている。これまでの大綱にもGNI比0.7%の文言は出てきていたが、「ODAを拡充」という文言は今回初めて入れることができた。
  • すべての省庁が合意の上で出すことから、「厳しい財政状況を踏まえつつ」という文言は盛り込む必要があった。表現が弱いという意見があることも承知しているが、外務省が自由に書くわけにいかず、最大限勝ち取れた表現がこういう形となった。

社会的基盤

  • 開発教育に関してもきちんと明記してほしいという要望が強かったことから盛り込まれた。

市民社会はどう関わってきたんだろう?大綱改定に向けたNGOの取り組み

後半は、栗田佳典・関西NGO協議会事務局長より、本改定に際する市民社会(NGO)のこれまでの取り組みの振り返りや、新大綱に対して市民社会から出されている意見等について解説いただきました。

100団体以上、個人では200人以上が参画したプロセス

開発協力大綱の改定については、2022年9月以降外務省を中心とした検討が進められ、12月には有識者会議の報告が出されました。2023年4月に新たな開発協力大綱(案)が公表され、2023年6月に開発協力大綱の改定が閣議決定されました。

市民社会の動きについては、大きく下記3つのフェーズに区切れるそうです(詳細は関西NGO協議会の報告ページをご確認ください)。

  • 有識者懇談会フェーズ
  • パブコメフェーズ
  • 大綱発表フェーズ

有識者懇談会フェーズ

1.NGO・外務省定期協議会 開発協力大綱改定NGO代表委員_稲場雅紀氏による有識者懇談会への参加

それぞれの評議員からNGOの代表として選出されたのは、稲場雅紀さん(アフリカ日本協議会・理事)1名のみでした。そのため、稲葉さんをバックアップするための組織として、アドバイザリーグループが作成され、それぞれの専門性を活かしあいながら稲葉さんをサポートする役割を果たしました。

栗田さんは、連携推進委員会の事務局を担当。有識者懇談会の前には、円卓会議を何度も開催、円卓会議の前にはアドバイザリーグループの会議を開催、そのアドバイザリーグループ会議の前にも会議を…という形で、何度も話し合いの場を設けてきたそうです。毎回ぎりぎりの告知になってしまったものの、多くのNGOの皆さんが集まってくだささり、外務省に会議の場を設けてもらったこともあったそうです。

2.林芳正外務大臣へ有識者懇談会の最終報告書を提出

2022年12月9日、林芳正外務大臣に対し、計4回開催された有識者懇談会の議論をまとめた報告書が提出されました。

12月に有識者懇談会のプロセスが終わったことで、事務局やアドバイザリーグループは役目を終えたので、1月からは「開発協力大綱に関する市民社会ネットワーク」が立ち上がりました。意見交換会を複数回開催し、意見交換会実施前に勉強会を開くなど、多くの人を巻き込むための様々な場を設けてきました。

3.意見交換会の実施
外務省主催の開発協力大綱の改定に関する意見交換会が、オンラインや日本全国で計10回開催されました。

こうしたプロセスでは、この分野に専門性を持たない方が会話に入ることが難しいことから、「開発協力大綱って何?」という初心者向けの学びの場も(Nカゴ含め)開かれました。経験を持った上の世代だけでなく、前回のプロセスにかかわっていない世代にも関わってもらう機会を作ることができた、と栗田さんは話します。

  • パブコメフェーズ

4.新開発協力大綱案が公開、パブリックコメントの募集
2023年4月5日、外務省より、新たな開発協力大綱の案が公開され、同時にパブリックコメントの受付も開始されました。

  • 大綱発表フェーズ

  • 5.新しい開発協力大綱の閣議決定
    2023年6月9日、開発協力大綱の改定が閣議決定され、外務省ウェブサイトに公開されました。

新開発協力大綱に関する市民社会ネットワークの声明

こうした長いプロセスを経て、「新開発協力大綱に関する市民社会ネットワークの声明」がまとめられました。ぜひご一読ください。

http://kansaingo.net/kncnews/message/20230612.html

日下部審議官含む関係者の皆さまが、いかに多くの声を聴きながら改定プロセスを主導してきたかということがよくわかりました。また栗田さんのお話からは、時間が限られる中で多くの市民社会を巻き込むために試行錯誤されてきたことが伝わりました。皆さまはいかがでしたでしょうか。

閣議決定はなされましたが、引き続き新しい開発協力大綱に関わる動きを注視していければと思います。


開発協力大綱の改定に関する外務省のウェブサイトは以下のリンクからご確認ください。

参考:外務省「開発協力大綱の改定」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/kaikaku/taikou_kaitei.html

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