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Nピボレポート

国際保健分野のNGOによる政策提言を学ぶ!「ジェンダー平等も、国際保健も。~UHC Dayを前に~」【アドボカシー】
国際保健分野のNGOによる政策提言を学ぶ!「ジェンダー平等も、国際保健も。~UHC Dayを前に~」【アドボカシー】
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12月12日は、すべての人が適切な予防・治療・リハビリなどの保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態のことを指す「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」を世界中で推進するための記念日、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デー(UHC Day)」です。

UHCは、2005年に世界保健総会で提唱され、2012年に国連総会で国際開発における必要不可欠な有線課題として位置づけることを勧告する決議が採択されました。市民社会組織はUHC推進のためにこの日を記念日としてきましたが、2017年に国連の正式な記念日として制定されました。

2015年に同じく国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を含む2030アジェンダにおいても、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」のターゲット3.8に「すべての人々に対する財政保障、質の高い基礎的なヘルスケア・サービスへのアクセス、および安全で効果的、かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンのアクセス提供を含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する」ことが盛り込まれています。

保健分野のNGOがつくるネットワーク「GII/IDIに関する外務省/NGO懇談会」

日本の国際協力NGOも多くの団体が保健課題に取り組んでいます。そうした保健分野のNGOがネットワークを作り、NGOと外務省の間で地球規模の保健医療分野の課題について協議し、連携強化の促進を目的として開催されているのが、「GII/IDIに関する外務省/NGO懇談会」です。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/gii_idi.html

この懇談会は、1994年に日本政府が発表した、途上国における人口やエイズへの取組を実施するため「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」をきっかけに、人口やエイズ分野での支援において現地できめ細やかな活動を行うNGOとの対話という形で開始されました。

2000年のG8九州・沖縄サミットの際に「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」を日本政府が発表したことを受けて、現在の「GII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会」と改称し、エイズ以外の感染症を含む保健課題について協議されるようになりました。

  • GII:人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(Global Issues Initiative)
  • IDI:沖縄感染症対策イニシアティブ(Okinawa Infectious Disease Initiative)

2017年には、外務省によるNGO活動環境整備支援事業であるNGO研究会「グローバル・ヘルスとNGO」が公益財団法人ジョイセフによって実施され、UHCに関する勉強会・ワークショップ・交流会・政策提⾔・シンポジウムなどが行われ、包括的な報告書も作成されています。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000372536.pdf

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジと市民社会の取り組みについて学ぶ

アドボカシーチーム第4回勉強会では、「NGO研究会」でユニバーサル・ヘルス・カバレッジと市民社会の取り組みを研究してきたジョイセフのアドボカシーディレクターである神谷麻美さんをお迎えし、お話を伺いました。

ジョイセフは、女性のいのちと健康を守るために活動している日本生まれの国際協力NGOです。保健分野に加えて、「ジェンダーの平等と女性のエンパワーメント」も基本となる価値と位置付けて活動しているため、勉強会のタイトルを「ジェンダー平等も、国際保健も。」と名付けました。

神谷さんは大学卒業後、映像制作の仕事に就かれました。その後、そのスキルを活かして、青年海外協力隊に応募し、HIV/エイズ予防活動団体で映像教材の制作を行うためにウガンダに2年間派遣されました。帰国後、ジョイセフに入職し、まずはメディアコミュニケーショングループで活動現地の教材制作に携わります。その後、技術移転グループとして、活動現地へのさまざまな技術移転に関わったのち、2014年ごろからアドボカシーグループに所属し、政策提言を担当するようになります。

ここで、前述の「GII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会」の事務局業務を担います。国際保健の現場での経験を踏まえて、政府と市民社会の対話を促進する政策提言に関わることになりました。現在、SDGs推進に向けた市民社会のネットワーク組織である一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(通称SDGsジャパン)のジェンダーユニットで共同幹事として事務局業務に携わり、若者(ユース)によるアドボカシー活動支援にも関わっています。

JOICFP(ジョイセフ)ってどんな団体?

ジョイセフは日本の戦後の家族計画・母子保健の経験を途上国へ伝えることを目的に1968年に設立されました。英文名称は、

Japanese Organization for International Cooperation in Family Planning

というもので、その頭文字を取って「JOICFP(ジョイセフ)」を日本語の団体名としています。

現在のミッションは、

すべての人びと、とりわけ開発途上国の女性一人ひとりが、自らの意思と選択によって、質の高いセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利:SRHR)の情報とサービスを受けることができ、持てる能力を十分に発揮できる社会をつくります。

このミッションのもとで、

  • SRHRプロジェクト実施
  • アドボカシー(政策提言)
  • SRHR啓発事業
  • 人材育成(研修事業)
  • 被災女性・母子支援

などの活動を行なっています。

現在、

  • アジア地域:ミャンマー、アフガニスタン、日本の3カ国
  • アフリカ地域:ケニア、ウガンダ、タンザニア、ザンビア、ブルキナファソ、ガーナ、ガボンの7カ国

の合計10カ国で活動しています。

これまでの活動地域は合計42カ国にも及びます。

ジョイセフが行うアドボカシー

ジョイセフの活動内容に登場する「SRHR」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

これは、「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブヘルス/ライツ)」を意味しています。

SRHRとは、自分の体、性や生殖における自己決定権を指し、性を通して健康に生きるための情報やケアへのアクセスを含む「基本的人権」です。しかし、世界を見渡すと、いまなお、特に女性がSRHRを享受できず、生き方の選択や健康、命まで脅かされる現実があります。例えば、望まない結婚や妊娠を強要させられたり、妊婦が十分なケアを受けられなかったり・・・女性であるがゆえに、命や健康が危険にさらされているのです。ジェンダーや地域、経済などのさまざまな格差が存在するなか、女性を取りまく環境が命の格差を生んでいます。ジョイセフは、女性が「性と生殖」の問題で人生の選択肢や自己実現の可能性を失わないよう、「予防」の観点から人びとの意識・行動・制度すべてに働きかけ、根本的な変化につなげていく活動を行っています。

神谷さんが投影された資料には、SRHRに関する様々なキーワードが紹介されていました。

パートナーシップ、セックス、避妊、妊娠・出産、中絶、産む・産まない、性感染症、不妊、多様な性(LGBT/SOGI)、検診・検査、月経、性教育、性暴力・デートDV、ジェンダー、ボディ・イメージ

こうしたセクシュアル・リプロダクティブヘルス/ライツ(SRHR)の推進を行うために、ジョイセフが行なっているアドボカシーについても説明していただきました。大きく分けて以下の4つの活動を行なっています。

  • 政府への働きかけ
  • 影響力のある人(国会議員)への働きかけ
  • 世論の喚起
  • NGO間の協力

「政府への働きかけ」として、冒頭で紹介した「GII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会」の開催が挙げられます。外務省と保健分野で活動するNGOが2ヶ月に1回、政策対話を行なっています。この懇談会は、公式の議事録を作成しない代わりに、双方が率直な意見交換をできる場として重宝されています。

「影響力のある人(国会議員)への働きかけ」としては、議員勉強会や議員との意見交換会の開催、議員との個別面会の実施、国際組織(IPPFやUNFPA)とのアライアンスが挙げられます。

IPPF(国際家族計画連盟)とは、グローバルに保健医療ケアを提供し、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)をすべての人が実現するために働きかける国際NGOであり、1952年に設立されています。100以上の加盟協会が自主的にIPPFに参加し、140カ国以上で活動しており、ジョイセフはIPPF東京連絡事務所として日本におけるIPPF活動をサポートしてきており、2021年よりIPPFの国際連携パートナーとなってグローバルな政策提言活動も展開しています。IPPF加盟団体のうち、ザンビア、ブルキナファソ、ウガンダの団体はジョイセフと連携してプロジェクトを実施しています。

https://www.ippf.org/jp

UNFPA(国連人口基金)は開発途上国や経済移行諸国に人口関連の支援を行う機関として、1969年に設立され、それぞれの国がリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)や個人の選択に基づく家族計画サービスを改善できるように支援しています。ジョイセフは、IPPFおよびUNFPAと連携し、日本政府に対して、世界のリプロダクティブ・ヘルスの現状を情報提供したり、援助実績の報告を実施しています。

https://tokyo.unfpa.org/ja

「世論の喚起」として、「#iLADY」などのハッシュタグを使った日本の10〜20代を対象としたSRHRに関する情報提供と一人ひとりのアクションのきっかけをつくるキャンペーン、毎年3月8日の国際女性デーに合わせて2016年から実施しているチャリティアクションである「ホワイトリボンラン」(エントリー費の収益全額が世界の女性の命と健康を守る活動に使われます)、これらの活動のメディアへの掲載、インフルエンサーとの連携などが紹介されました。モデルの冨永愛さんは、2010年4月、世界の妊産婦の命を守る運動「ホワイトリボン」のイベントに参加したことをきっかけに、ジョイセフの活動に共感し、「ジョイセフフレンズ」としてマンスリーサポーターになり、同年秋にジョイセフの活動現場であったザンビアを訪問、そこで出会った女性たちの声や現状を日本の多くの人に知らせたいと感じ、2011年にジョイセフアンバサダーに就任しました。アンバサダーとして、タンザニアの訪問や東日本大震災の被災地である岩手県や宮城県の視察と被災女性の現状について発信されています。

https://ilady.world/

https://white-ribbon.org/white-ribbon-run/

「NGO間の協力」として、SDGs市民社会ネットワークジェンダーユニットやGII/IDI懇談会NGO連絡会としての活動、Universal Health Coverage (UHC) Coalitionや市民社会ネットワーク for TICADなどでの活動も実施されてきました。

NGOネットワークによるアドボカシーの手法と意義

このうち、GII/IDIに関する外務省NGO定期懇談会について、より詳しく解説していただきました。

  • 参加団体数:国際保健に関心のある30団体(2022年度)
  • 定期懇談会:隔月開催、累計160回(2022年11月現在)
  • 管轄省庁:外務省 国際協力局 国際保健戦略官室

外務省の国際保健戦略室とは、国際的な保健課題に関する事務を所掌し、地球規模で必要と考えられる所要の検討を行いつつ、企画・立案と調整・意思決定に当たる部署です。2011年に外務省国際協力局に国際保健政策室として設置され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックなどにより、国際保健が経済・社会・外交・安全保障に直結する重要な課題である、という認識のもと、2022年に「国際保健戦略官室」へと格上げされました。

  • 運営:幹事団体制度(代表、事務局、幹事4団体)
  • 会費:年間2,000円(2,000円x30団体=60,000円が年間予算)
  • 司会:外務省・NGOが交代で務める
  • 特徴:議事録なし、録音禁止。議事録を取らない約束で、ざっくばらんな意見交換を目指す
  • 形式:外務省会議室において対面開催(2時間)を基本とし、コロナ拡大以降はオンライン開催(90分)

国際保健に関する日本政府のリーダーシップについても伺いました。

1994年2月に「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(Global Issues Initiative / GII)」が発表され、日米共同で、「人口」「エイズ」問題に積極的に取り組むことが確認されました。1994年から2000年の7年間に、30億ドルのODAが実施されています。同時期に、GII懇談会が設立され、GIIの効果的な実施を目的に、1994年12月に第1回GIIに関する外務省・NGO懇談会が開催され、政府とNGOの政策対話が開始されます。

1997年にアメリカ・デンヴァーで行われたG8サミットにおいて、橋本龍太郎・総理大臣(当時)が「これまで日本が経験してきたことを踏まえて寄生虫対策に寄与したい」と発言し、翌1998年のイギリス・バーミンガムでのG8サミットにおいて、G8各国が世界の寄生虫対策に取り組む必要性を宣言し、「橋本イニシアティブ」と呼ばれました。その後、JICAの支援を通じてタイ、ケニア、ガーナに国際寄生虫対策センターが設立され、寄生虫対策やその基盤となる学校保健の国際的普及にも貢献しています。

2000年7月に開催された九州・沖縄サミットにおいて、「沖縄感染症対策イニシアティブ(Okinawa Infectious Disease Initiative)」が発表され、感染症問題に積極的に取り組むことが宣言されました。これを受け、2000年から2004年までの5年間に、30億ドルのODAを実施することが目標とされました。主な支援内容は以下の通りです。

  • 途上国の主体的取り組み(オーナーシップ)の強化
  • 人材育成
  • 市民社会組織、援助国、国際機関との連携
  • 南南協力
  • コミュニティ・レベルでの公衆衛生の推進

この時期に、GII懇談会は「GII/IDI懇談会」へと名称を変更します。

2002年には「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」が設立されました。グローバルファンドは、100以上の国・地域が自ら行う三大感染症の予防、治療、感染者支援、保健システムやコミュニティシステムの強化に、年間40億ドルの資金を供与しています。2022年現在、グローバルファンドには累計648億ドルが各国政府や民間財団から拠出され、このうち、日本政府は累計42億ドルを拠出しています。このように、日本政府も多額の資金を拠出している国際保健イニシアティブについて、国際保健分野で活動するNGOが対等な立場で意見を表明し、議論に参加することは大変重要な政策提言の一つなのです。

世界が掲げる保健関連の目標における課題

これらの保健関連目標は、2015年までに一定程度は達成されましたが、同時に課題も残されています。

例えば、

  • サハラ以南アフリカで母子保健目標の達成に遅れが見られる
  • MDGsではカバーされない新たな課題への対処の必要性(非感染性疾患、高齢化など)

などです。

このため、MDGsを引き継ぐ開発目標として策定されたSDGsでは、

5歳以下の死亡率の低下、エイズ・結核・マラリア・顧みられない熱帯病などの感染症の根絶、被感染症疾患(NCD)による死亡の減少、アルコールを含む薬物乱用の防止・治療、道路交通事故による死傷者の半減、性と生殖に関するヘルスケア、質の高い基礎的なヘルスケア・サービスへのアクセスとユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成、有害物質・大気・水質・土壌の汚染による脂肪と病気の減少、たばこ規制、ワクチンや医薬品の研究開発支援、保健財政の強化、健康リスクの早期警告・緩和

などの幅広い保健分野が盛り込まれることになりました。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジについても、日本政府は、日本におけるUHC達成の経験を通じて、国際的立場で主導している、とのことです。UHCに関する動きをまとめていただきました。

  • 2012年 国連総会でUHCの推進が全会一致で決議(12月12日:UHC Day)
  • 2013年 日本政府は国際保健外交戦略でUHCを柱に
  • 2016年 G7伊勢志摩サミット宣言にUHC推進
  • 2017年 国連総会でUHC国際デーが12月12日
  • 2019年 国連総会でUHC政治宣言が決議
  • 2020年 COVID-19パンデミックにより、強靭なUHCの達成の重要性が高まる

また、GII/IDI懇談会が関与してきた国際保健政策についても、以下のようにまとめられています。

  • 1994年から2000年 人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)[人口・家族計画、エイズ対策支援]
  • 2000年から2005年 沖縄感染症イニシアティブ(IDI)[感染症対策支援]
  • 2005年から2010年 保健と開発に関するイニシアティブ(HDI)[MDGs達成に対する貢献に重点]
  • 2011年から2015年 新国際保健政策(Japan’s Global Health Policy)[保健システムの強化とMDG456達成]
  • 2015年から2020年 平和と健康のための基本方針[公衆衛生危機への備えと強靭な保健システムの構築]
  • 2022年から グローバルヘルス戦略[UHCとPPR]

GII/IDI懇談会NGO連絡会による政策提言

2022年5月に日本政府が策定した「グローバルヘルス戦略」に向けて、GII/IDI懇談会NGO連絡会は政策提言を実施してきました。主な活動は以下の通りです。

  • 政府設置のタスクフォース委員にNGOが2名参加、策定プロセスに関わる。
  • 戦略に関する内閣官房とNGOの対話を3回実施。
  • 外務省とNGOの意見交換を3度実施。
  • 提言書を2度にわたって提出。
  • 公開イベントの実施。
  • パブリックコメントで意見を提出。
  • 政府に対する協力体制の構築(文案の提出や照会事項の即時対応など)。

グローバルヘルス戦略の策定に向けた政策提言の成果としては、

  • NGOとの連携に関する記述が、ほぼ提案通りに採用されたこと。
  • 第一、第ニドラフトまでは皆無であった「SRHR」に関する記載が、最終的に4箇所に採用されたこと。

が挙げられます。

一つ目については、「6.市民社会との連携」として2ページにわたって記述されています。

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最も脆弱な立場に置かれた人々の権利を擁護する観点から、「誰一人取り残さない」社会を目指し活動する市民社会は、UHC、そして SDGsを達成する上で不可欠なステークホルダーである。

市民社会は、日本・海外の NGO とも、途上国現地で、政府間の援助の手の届きにくい地域で柔軟性に富んだ小回りの利く支援活動を行い、人々を中心にすえて、コミュニティ・人々の健康・生活ニーズをよく把握し、対応している。また、社会的・経済的に脆弱性の高い人々やコミュニティと共に活動し、国境を超えたネットワーク、柔軟性、機動性、情報収集や現状把握、ヘルス・リテラシーの向上やリスクの早期発見等の強みを有する。このように、市民社会は保健医療サービス提供の重要な担い手であると共に、コミュニティの能力強化、全ての人々の健康的な暮らしに不可欠な適正な技術・仕組みの開発・検証・普及、更に政府が説明責任を果たすことを求め、取組のモニタリング・レビュー・評価など、多様かつ重要な役割を担っている。市民社会の中には、政府や企業など多様なアクターと関係を構築し事業を実施するなど、産官学及び市民・コミュニティとの連携を含め、マルチ・セクトラルな連携の強化に取り組む団体もある。

市民社会はグローバルヘルスの政策面において大きな役割を有しており、グローバルファンド、GaviやCEPIを始め、国際機関や官民連携基金の事業実施やガバナンスにも積極的に参画している。UHCの達成、SDGsに示されている保健や関連領域の問題への取組の促進、パンデミックへのPPRに必要な予算の獲得、資源の配分、効果的な政策導入と実施のためには、ODAの在り方に関する政策議論、事業形成、国際支援枠組みのガバナンスや運営など、あらゆるレベルにおける日本を含む先進国及び途上国の市民社会の参加やオーナーシップの確保が不可欠である。一例として、UHC2030を通じた国際的な政策形成への日本の市民社会の貢献などがあげられ、そのような取組を引き続き積極的に支援していく。

このように、市民社会がUHCの実現と公衆衛生危機への対応能力を強化するために担う役割は大きい。UHCの観点からは、保健医療サービス提供の担い手としての役割をもつだけでなく、途上国の保健システムの強靭化に欠かせない草の根レベルでの人材育成を含む社会的資本(ソーシャル・キャピタル)の増強や、個人やコミュニティの有する脆弱性の低減に市民社会が貢献することが可能である。これらは新たな時代の人間の安全保障の実現に寄与するものでもある。また、政府の実施する政策について裨益者の視点からレビューし、提言を行うことができる。公衆衛生危機の観点では、コミュニティが強靱であれば危機を素早く察知し、適切に対処ができること、またメディアとの連携によりリスクコミュニケーションを適切に行うこと、などの貢献が考えられる。市民社会とODAの連携によってこれらの貢献を拡充するには、それぞれの ODA 援助形態の特性に応じて、コミュニティレベルの保健インフラに加え、ソフト面での連携を強化することが必要である。

市民社会を、我が国のグローバルヘルス戦略上の重要かつ対等なパートナーとして位置付け、日本の市民社会の活動とODAの連携を強化する。また、国内外のNGO、とりわけ途上国の草の根レベルで活動する中小規模の現地NGO に対する協力・対話を強化していく。

具体的取組として日本政府においては、外務省の日本 NGO 連携無償資金協力やJICA草の根技術協力など、日本のNGOの専門性とODAの連携によって、より効果的な協力を行う仕組み、各大使館が現地 NGO等へ資金を拠出する草の根・人間の安全保障無償資金協力、日本のNGOとの協議・対話の仕組みである GII/IDI懇談会などを有している。今後、資金ニーズの拡大や市民社会からの要望を踏まえて、これらの仕組みのユーザビリティの向上、より効果的・効率的な運用を目指して取り組む。また、GIIのようなプラットフォームを軸に、多様な市民社会と幅広い関係省庁や関連政府機関との協議や対話の機会の確保などに努める。また、今後、コミュニティ・ヘルスに取り組む現地NGOなどを効果的に支援する観点から、海外を含めた多様な市民社会との協議・対話の場の確保などを検討する。市民社会の参加と包摂的なガバナンスを推進することで、不平等や格差、差別といった構造的な課題解決にもつながることが期待される。

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二つ目のSRHRについては、「15. 分野横断的・学際的アプローチ」の「(4)人口変動と開発」として、以下のように記載されています。

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人口変動(少子高齢化、人口増加/減少、都市化、移住、紛争による人の移動など)は、人間、社会、経済の発展のあらゆる側面に影響を与え、健康に影響を与える。人口問題は、妊娠・出産を含む女性の健康と切り離せない問題であり、性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を守る観点からも取組が必要である。我が国は UNFPA(国連人口基金)や IPPF(国際家族計画連盟)を通じて、人口変動と開発に取り組んできており、今後も協力を続けていく。

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特に二つ目のSRHRについては、市民社会による働きかけがなければ、現行の戦略に記載されなかったかもしれないことを考えると、政策提言の重要性がよくわかります。

グローバルヘルス戦略にみる国際保健潮流

続いて、グローバルヘルス戦略にみる国際保健潮流について解説していただきました。グローバルヘルス戦略は、「UHCとPPRの2本柱」です。

  • UHC:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage)
  • PPR:公衆衛生危機に対する予防・備え・対応(Pandemic Prevention, Preparedness and Response)

COVID-19で世界的に明らかになった保健システムの脆弱性を検証し、今後の公衆衛生上の危機に備えるためには、平時から各国が「予防・備え・対応(Prevention, Preparedness, Response / PPR)を行うべき、という考えです。

世界銀行の理事会は、2022年6月に世界保健機関(WHO)を主たる専門的パートナーとし、低・中所得国を支援対象として、パンデミックへのPPR機能を国、地域、グローバルの各レベルで強化するために必要不可欠な投資に資金を提供する金融仲介基金(FIF)の設置を承認しました。FIFは、PPR専用の追加資金を確保し、各国に投資拡大を促し、パートナー間での協力を強化し、保健システム強化と資金動員に協力して取り組むべきだと主張するプラットフォームの枠割を担います。また、2023年9月に開催される国連総会で、PPRハイレベル会合が新たに追加され、これにより、UHCハイレベル会合、結核ハイレベル会合と合わせて、国際関連の会合が3つ同時期に開催されることになりました。

なお、今年(2023年)の国連総会は9月5日から開始されていますが、19日からは26日にかけては「国連総会ハイレベルウィーク」と呼ばれ、以下のようなハイレベル会合が連続して開催されます。

https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/48592/

  • 9月19-23日、26日 一般討論
  • 9月18-19日    SDGサミット
  • 9月20日     開発のための資金調達に関するハイレベル対話
  • 9月20日     気候野心サミット
  • 9月20日     パンデミック予防・備え・対応(PPR)に関するハイレベル会合
  • 9月21日     「未来サミット」のための閣僚級準備会合
  • 9月21日     ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関するハイレベル会合
  • 9月22日     結核との闘いに関するハイレベル会合

このように、国連総会において国際保健に関するハイレベル会合が次々と開催されますが、イベント開催時点では2ヶ月後に迫っていた日本政府によるG7議長国の就任も、国際保険課題に注目が集まる機会でした。2023年5月に開催されるG7広島サミット首脳会合において、「国際保健を重要議題の一つにする」と岸田文雄総理大臣が発言したり、G7市民社会コアリション2023が事務局を務める世界中のCSOによる政策提言のプラットフォームであるC7(Civil7)においても国際保健ワーキンググループが継続的に活動し、政策提言を作成してG7に働きかけ、C7サミットにおいて保健関連課題の議論が実施されました。

https://g7-cso-coalition-japan-2023.mystrikingly.com/

https://civil7.org/

#男女共同参画ってなんですか

続いて、勉強会のもう一つのテーマであるジェンダー平等についてもお話しいただきました。

ジェンダー分野におけるU30ユースによるアドボカシーとして、ジョイセフが連携しているのが「#男女共同参画ってなんですか」と「SRHRユースアライアンス」です。

https://u30equal.com/

https://www.joicfp.or.jp/jpn/srhru30jp/

「#男女共同参画ってなんですか」は、2020年12月に日本政府が閣議決定した第5次男女共同参画基本計画について、若者の意見を聞いた上で作られているものなのか、若者ばかりが変わらなければならないのか、など、当事者として疑問に思った30歳以下の3人が始めた、多くの若者がパブリックコメントを提出することを目標とするプロジェクトです。生まれた性別によって選択の幅が狭まる日本の状況を変えたいという思いをもとに、SNS上で意見や疑問を募り、若者が学び合い、対話する場をつくってきました。例えば、

  • U30向けの勉強会
  • インスタライブ

の開催などです。

これらを通じた以下のような声が寄せられました。

  • 就活セクハラをなくすために・罰則などつくってください。
  • 包括的性教育を実施してください。
  • 全体的に若者が知識を得る機会は書かれていますが、大人の方が知識を得る機会を設けてください。
  • 結婚したら女性が名字を変えて当たり前、というのは変えるべき概念だと思う
  • ユースの意見やニーズを反映するユースを有識者に!
  • 性に対して自由に話し合える社会になってほしい!

2020年7月20日のウェブサイト・オープンから、締め切り日の9月3日までの1ヶ月半の間に、

  • イベント参加者:のべ600人以上
  • SNSフォロワー:1,700人以上
  • パブリックコメント:1,000件以上

が集まりました。若者もジェンダーに関心があることが証明された、と言えます。

さらに、翌9月4日には橋本聖子・男女共同参画・女性活躍担当大臣(当時)にユースからの提言を提出しました。

https://www.joicfp.or.jp/jpn/2020/09/07/46687/

その後、第5次基本計画策定専門調査会において、ユースからの提言が資料に採用されました。

http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/5th/sidai/5th-7-s.html

また、ユースによるパブリックコメントが、「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方」(案)に反映されました。以下がユースによる提言箇所です。

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避妊をしなかった、又は、避妊手段が適切かつ十分でなかった結果、予期せぬ妊娠の可能性が生じた女性の求めに応じて、緊急避妊薬に関する専門の研修を受けた薬剤師が十分な説明の上で対面で服用させることを条件に、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討する。

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第5次男女共同参画基本計画の策定から2年が経過し、2022年10月25日には「#若者の声のその後 ー5次計の現在地ー 関係省庁×U30×国会議員の意見交換会」を開催し、進捗を議論しました。

「#男女共同参画ってなんですか」プロジェクトは、GUCCIがジェンダー平等を訴えるグローバルプロジェクト「チャイムフォーチェンジ #CHIMEFORCHANGE」の一環として、日本では公益財団法人ジョイセフが受託しています。

また、ユースによるSRHRのアドボカシーを行なっているSRHRユースアライアンスについてもご紹介いただきました。活動内容は、

  • アドボカシー
  • 意識啓発
  • 勉強会や意見交換会などの実施

の3つです。

 

「アドボカシー」として、国際社会との連携をとりつつ、日本国内のSRHR課題の解決と、SRHRに関するSDGSターゲット3.7および5.6の達成を目指し、ユースから政策提言を行っています。

「意識啓発」の目的は、若者世代のSRHRの認知を高めるとともに、日本国内でのSRHRに関するモメンタムを作ることです。

これらを、勉強会や意見交換会を実施することでより多くのユースに対して広げています。

アドボカシーの反省点と課題

最後に、「アドボカシーの反省点と課題」についても率直にお話しいただきました。

アドボカシーは一つの団体だけで取り組むのではなく、複数の団体がネットワークを形成して活動することが多いため、予算確保、特に人件費の確保が大きな課題だということです。特に、アドボカシーに必要な経費の大部分が人件費だからです。また、すでに確立されたネットワーク組織に新規団体をいかに募っていくかを模索されている、とのことでした。また、コミットメントが強いメンバーをいかに増やしていくかも同時に考えているそうです。さらに、ネットワーク内やアドボカシー対象者との連絡調整に多くの時間と労力を割く必要があるため、ウェブサイトを構築・更新したり、SNSに投稿したりといった広報活動になかなか時間が割けないことも悩みだとおっしゃっていました。

また、ユースによるアドボカシー活動に関しては、ユースの主体性が大切であり、ユースによる提言活動のサポートに徹するべきであり、「上から目線」は厳禁、寛容な心も必要、とおっしゃっていました。また、活動を進める上でユースの参加しやすい時間帯に設定したり、ユースによるコミュニケーションを尊重したり、といったこともポイントだとのことです。日本でもようやく若者の重要性が認識されつつあり、例えば、ユースによる提言活動を支援してくれる議員と密接にコンタクトを取っておくことも重要です。「ユースはユースに心を開く」という考え方のもと、関係者に中になるべくユースを増やすよう努力されている、とのことでした。

神谷さんのお話しを受けて、ブレイクアウトセッションでは参加者間での感想、質問、疑問などを話し合い、質問タイムを設けた後、2回目のブレイクアウトセッションでは、神谷さんからのお題として「理想的なNGOネットワークとは」について率直に意見交換をしました。

終了後、神谷さんも交えて希望者で「放課後タイム」を実施し、さらに意見交換と交流が続きました。

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