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国内課題の政策立案から学ぶ!「貧困、孤独・孤立化対策の現況と課題」【アドボカシー】
国内課題の政策立案から学ぶ!「貧困、孤独・孤立化対策の現況と課題」【アドボカシー】
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2023年9月20日、内閣官房孤独・孤立対策担当室政策参与として、孤独・孤立化対策に市民社会の立場から関わってきた認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連さんに、生活困窮者支援、参与としての活動、政府に対する提言について伺いました。

イベントの内容を簡単にレポートにまとめました。

「孤独・孤立化対策」のこれまでの流れ

終身雇用・年功賃金などの日本型雇用慣行が崩れ、非正規雇用が拡大する中、少子高齢化や都市への人口集中、家族形態の多様化、さらにコロナ拡大による経済低迷と生活困窮者の増加などにより、日本社会では急速に個人の孤独化・孤立化が進んでいます。

イベントレポートに入る前に、こうした問題に対応すべく、これまでにどういった動きがあったのか、簡単におさらいです。

  • 2021年2月 内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」設置
  • 2021年12月「孤独・孤立対策の重点計画」が取りまとめられる
    • (1)孤独・孤立双方への社会全体での対応、(2)当事者や家族等の立場に立った施策の推進、(3)人と人との「つながり」を実感できるための施策の推進、という基本理念のもと、四つの基本方針が盛り込まれ、その中には「孤独・孤立対策に取り組むNPO等の活動をきめ細かく支援し、官・民・NPO等の連携を強化する」ことも含まれた
  • 2022年2月 重点計画に基づく「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」設立
    • NPOや中間支援団体、社会福祉法人、自治体など約200以上の団体が参加し、連携強化や普及活動、情報共有などが行われる
  • 2023年5月 孤独・孤立対策推進法成立
      • 「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」、「相互に支え合い、人と人との『つながり』が生まれる社会」を目指し、国・地方公共団体の責務や関係者の連携・協力が規定(施行は2024年4月1日)

自立生活サポートセンター・もやいって?

大西さんが理事長を務める自立生活サポートセンター・もやいは、日本国内の貧困・格差の問題に取り組む認定NPO法人です。主に下記のような活動に取り組んでいます。

  • 生活困窮者への相談支援
    • 年間6000~7000件の相談対応(面談・電話・メール・チャット等)
  • 年間2万人以上に食料支援
  • ホームレス状態の人のアパート入居のための支援
    • のべ2400世帯に連帯保証人提供、1300世帯の緊急連絡先引き受け
    • 認定NPO法人として初めて宅建免許取得、のべ350件の住まい探し相談
    • コロナ禍でアパート型シェルターの設置と運用
  • 年間2万人以上に食料支援
    • カフェサロンの常設、コーヒー焙煎、農業体験などの社会参加の機会の提供
  • 生活保護や社会保障制度の提言等

 

大西さん個人としては、

  • 政府のSDGs推進円卓会議構成員
  • 内閣官房孤独・孤立対策担当室政策参与
  • 社会福祉法人いのちの電話 理事 

などもされているそうです。

700人:コロナ禍での支援現場の状況

コロナ禍になり、もやいが実施する食料品配布の現場には毎週700人程度の人が来るような状況だったそうです。リーマン・ショックの影響により派遣切り等がおきた際に設置された「年越し村」では500人程度だったそうで、それをはるかに超える人数が毎週訪れているということになります。

これは全国でも屈指の規模であり、先進国での支援の取り組みの中でもかなり大きい規模に入ります。

コロナの前後では、変化があったと大西さんは話します。コロナ前に食料品配布の対象となっていたのは、生活保護以下の方、具体的に言うと、住まいがない、所持金が数百円、という方が多数でした。

現在も引き続きそういった方々の利用はありますが、コロナ禍で人数が増えている要因としては、生活保護の手前の方、具体的に言うと、"働いているが、生活がぎりぎり"という方が多く利用するようになったことが上げられます。働いているがゆえに、公的支援を利用できず、こうした食料品配布などの支援を利用して節約をすることで、何とか踏みとどまりたい、という層が増えているのだそうです。

一概に分析・分類するのは難しい面もありますが、簡単に整理したのが下記です。コロナ前に多かったのが「要保護の層」、コロナ禍以降増えているのが「生活困難層」「生活不安層」と区分できます。

  • 要保護の層:生活保護の利用ができる程度の困窮状態の人
  • 生活困難層:要保護状態に近く、要保護と労働市場を行き来している人
  • 生活不安層:これまで「自立している」と見られていたワーキングプアなどの状況で、恒常的な低所得で生活の不安を抱える人

コロナ禍で「貧困」は増えたのか?

増えた、と色々なところで言われていますが、どちらかというと「もともとあったものが可視化された」のでは、と大西さんは話します。

現在の最低賃金は1072円。

確かに数十年前と比べるとだいぶ上がっていますが、物価も上がっています。

非正規雇用の場合、週5日働いても18万8672円、手取りはここから4~6万円ひかれることを考えると、人によっては13万円近くなり、生活保護ギリギリの金額になることがわかります。

では正社員であれば恵まれているのか、と言えば、全国平均は下記で、同様に余裕がある状況ではないことがわかります。

  • 高卒の初任給 約18万円
  • 大卒の初任給 約21万円

実際に、貯金がないと答える世帯は13%、貯金が200万円以下と答える世帯は3割を超えています。そもそも構造として、フルタイムで働いていても生活が楽ではない人が社会にたくさんいる時代になっていると言えます。むしろこうした人々は自立しているとみなされ、生活保護基準以上の収入があるので法的な保障の対象にはなりません。自助努力や家族の支えて何とかするしかないのが現状です。

NGOで最貧国の支援をしていると、貧困世帯がいると言っても日本はまだ恵まれている、と感じるかもしれませんが、途上国とは違う性質の「しんどさ」があることを理解してもらえればと、と大西さんは話します。

「貧困」=失業や無収入 のみではない

こうした状況は、「新しい生活困窮者層」が可視化されたと言えるでしょう。しかし政策的な課題として取り上げられているかというと、残念ながらそうなってはいません。失業や無収入に対応するための「就業支援」や「リスキリング」のように労働収入を戻すための支援はありますが、労働収入が戻ったら貧困でなくなるのか、というとそんなことはなく、ワーキングプアの状態で苦しい状況が続く方が増えています。

こうした社会の構造を再認識する必要がありますし、低所得層に向けた家賃補助や給付型支援のような制度を考えていく必要があるのでは、と大西さんは話します。現在の制度のほとんどは昭和の時代に作られていますので、変えていく必要があるというのは本当にその通りですよね。

貧困と「孤独・孤立」の関係性

では「貧困」と、今回のテーマである「孤独・孤立」はどう関わってくるのでしょうか。経済的な問題は大きいですが、必ずしもそれだけではありません。

例えば、失業したらみんな貧困になるかというと、そんなことはありません。実家を頼ることができる、パートナーに十分な収入がある、医者や弁護士のように強い資格を持っている、貯金がたくさんあるなど、失業しても貧困に陥らずに済む人もいます。

ではどういう人が貧困になってしまうのでしょうか。

頼れる人間関係がない、ということが大きな要因であると、こうした課題に取り組んできた人たちは考えているそうです。

「貧困」という課題を、「経済的困窮」と「孤独・孤立」に分けて考えてみた図がこちらです。

必ずしも十分ではありませんが、「経済的困窮」については、様々な社会保障の仕組みがあります。他方で、「孤独・孤立」という問題については、自己責任や個人の生き方の問題とみなされ、対応策がとられてきませんでした。

良さ、悪さは一概には言えないものの、これまで私たちを支えてきた、家族血縁地縁といったものの機能や役割が縮小してきているのは間違いありません。こうしたつながりは、放っておくと得られないものになってきており、普通に暮らしていたら「孤独・孤立」に陥りやすい社会になってきています。

こうした機能の代替として社会保障やNPOなどの相談窓口があるわけですが、相談するのにも、スティグマの問題などがあり、問題が悪化するというループが起きてしまっています。

約4割の孤独・孤立、じわじわ社会に浸透

国で「孤独・孤立」について実態把握の調査を行ったところ、「一定程度以上孤独である」と回答した人が4割程度いました。社会的交流という項目でも、同居していない家族や友人と会って話すことがあるか、という質問に対して、「月1回程度以下」という方が4割程度という結果になったそうです。

こうした状況から、孤独・孤立はじわじわと社会に浸透している、と言えるのではないでしょうか。ただ「孤独・孤立」は、それ自体が社会に大きなマイナスをもたらしているというよりは、他の社会課題と結びついたときに複雑化・進化させてしまう性質のものだと考えているそうです。

※アメリカでは、飲酒や喫煙よりも死亡率が高いという調査もあるようですが…

人間の体でいえば、免疫が下がっていて、病気にかかりやすい状態に近いのでは、と大西さんは話します。

他の社会課題とセットになったときに悪さをしてしまうと考えると、「孤独・孤立対策」というのは、社会や個人の免疫力を上げていくような施策群と理解をして取り組んでいらっしゃるそうです。

大西さんが参与としてやっていること

最後に、大西さんが参与としてどういった活動をされているのか、お話しいただきました。大西さんは、2021年6月から参与として活動しており、下記はこの2年で実現できたことの一部をご紹介しています。

  • コロナ禍で生活困窮者が増加。孤独・孤立の問題も深刻化
  • 孤独孤立への公的支援、民間支援ともに乏しいのが現状
  • 「孤独・孤立」を定義し、調査分析し、中長期的な視野で対策を考えることが必要(短期的取り組みで終わらせない)
    • 例:「孤独・孤立対策基本法」などの制定や計画づくり
      • この2年で…:重点計画策定法整備
  • 直近でいまできることを積み上げることが必要
        • DX推進:SNS相談の拡充、制度申請のオンライン化
          • この2年で…:中間支援モデル事業、NPO等モデル事業、地方版PFモデル事業
        • 地域の支援の底上げ:NPO等の支援、自治体でのモデル事業
          •  この2年で…:中間支援モデル事業、NPO等モデル事業、地方版PFモデル事業
    • 上記を実現するための枠組み作りNPO等との協議の場作り
      • 自治体との協議の場作り
        • この2年で…:フォーラム実施(70名以上から意見聴取)、 全国版官民連携PF作成&運営

例えば、2023年5月には孤独・孤立対策推進法が成立し、6月に公布されましたが、これは行政としてはかなり速いスピードで実現したと言えるそうです。

昨年には全国版の官民連携プラットフォームを作り、そこでの議論の内容を実際の政策に盛り込むなど、現在の政府の施策の中では珍しいレベルで民主的なプロセスを大切にしながら政策立案を進めてこられました。

質疑応答

  • Q:公式LINEを窓口に女性への支援を実施している。過去に、どこにも相談せずに自殺を選んだ女性がいた、という経緯があり、支援につながれていない人が多いのではと感じている。何か有効な施策やアドバイスがあれば。
    • A(大西さん):相談窓口があって救えることもある。「上流の蛇口をどう締めるか」という問題がある。相談件数をKPIなどにできる「下流での支援」はやりやすいが、政策部分である上流はすごく可視化しづらいのが課題。
  • Q:東南アジアではみられにくい、東アジア社会に特有の状況はどこから来るのでしょうか。
    • A(大西さん):地方が疲弊していることが孤独・孤立を悪化させているのでは。

  • Q:支援が必要な層(課題×孤独・孤立)に対して公の活動(助成されたNPOの活動)ができることは何か
    • A(大西さん):社会の在り方がどう変わっていくかが重要。放って置いたら孤独を感じてしまう、排除されてしまう社会ではないようにすること、仕組みを作ってサービスを提供しなくても大丈夫な社会・価値観を作っていくことが必要。もちろん政策にするときには何らかのサービスにする必要があるのだとは思うが……。私たちの今の社会の在り方には無理が来ていて、どのような生き方をするのか、どこを目指していくのかが問われていると思う。あとは取り組んでいる団体がばらばらで、仲もよくなかったりする。そこを一度全部テーブルに載せなおすような、市民社会の在り方の変化も必要になる。
  • Q:政策提言の枠組みを作るにあたっての苦労や工夫
    • A(大西さん):法律を作るために提言してきたことなどは、自分のSNSでは発信していない。実務面では実行委員会形式をとり、いろんな人が関わっている面を押し出すことを徹底している。自分はできるだけ黒子に徹し、みんなで作り上げたということを押し出すことで、「あいつが関わっているのであれば手伝わない」という人にも協力してもらいやすくなる。
    • A(大西さん):もやいは政府からの補助金はもらわず、寄付金を集めて全て自主事業をやっている。そのために自由度が高い活動ができ、短期間で成果が出る活動ではないものに注力でき、徹底した現場の視点で活動ができている。そこで培われた専門性や知見や現場力は、専門家でも太刀打ちできないくらいのレベルになっている。厚労省からは圧力団体のように怖がられている面があると思うが、一定程度の信頼を得て、発信などを認めてもらえているという点が大きかったと思う。

    現在、内閣官房孤独・孤立対策担当室による孤独・孤立対策キャンペーン「大丈夫!あなたはひとりじゃない」が実施されています。本イベントは同キャンペーンの趣旨に賛同するとともに、NPO・NGOによる取り組みを発信する機会としても活用します。

    参考資料:

    <行政関連>

    あなたはひとりじゃない:内閣官房 孤独・孤立対策担当室

    https://www.notalone-cas.go.jp/

    孤独・孤立対策推進法

    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/suisinhou/suisinhou.html

    孤独・孤立対策の重点計画

    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/juten_keikaku/jutenkeikaku.html

    令和5年孤独・孤立対策キャンペーン「大丈夫!あなたはひとりじゃない」

    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/pdf/230815_cam.pdf

     

    <大西さん関連>

    もやいブログ「参与として1年、『孤独・孤立対策』のこれから」(2022.06.17

    https://www.npomoyai.or.jp/20220617/8167

    もやいブログ「『孤独・孤立対策推進法』国会提出」(2023.06.13

    https://www.npomoyai.or.jp/20230613/8770

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