2023年9月20日、内閣官房孤独・孤立対策担当室政策参与として、孤独・孤立化対策に市民社会の立場から関わってきた認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連さんに、生活困窮者支援、参与としての活動、政府に対する提言について伺いました。
イベントの内容を簡単にレポートにまとめました。
終身雇用・年功賃金などの日本型雇用慣行が崩れ、非正規雇用が拡大する中、少子高齢化や都市への人口集中、家族形態の多様化、さらにコロナ拡大による経済低迷と生活困窮者の増加などにより、日本社会では急速に個人の孤独化・孤立化が進んでいます。
イベントレポートに入る前に、こうした問題に対応すべく、これまでにどういった動きがあったのか、簡単におさらいです。
大西さんが理事長を務める自立生活サポートセンター・もやいは、日本国内の貧困・格差の問題に取り組む認定NPO法人です。主に下記のような活動に取り組んでいます。
大西さん個人としては、
などもされているそうです。
コロナ禍になり、もやいが実施する食料品配布の現場には毎週700人程度の人が来るような状況だったそうです。リーマン・ショックの影響により派遣切り等がおきた際に設置された「年越し村」では500人程度だったそうで、それをはるかに超える人数が毎週訪れているということになります。
これは全国でも屈指の規模であり、先進国での支援の取り組みの中でもかなり大きい規模に入ります。
コロナの前後では、変化があったと大西さんは話します。コロナ前に食料品配布の対象となっていたのは、生活保護以下の方、具体的に言うと、住まいがない、所持金が数百円、という方が多数でした。
現在も引き続きそういった方々の利用はありますが、コロナ禍で人数が増えている要因としては、生活保護の手前の方、具体的に言うと、"働いているが、生活がぎりぎり"という方が多く利用するようになったことが上げられます。働いているがゆえに、公的支援を利用できず、こうした食料品配布などの支援を利用して節約をすることで、何とか踏みとどまりたい、という層が増えているのだそうです。
一概に分析・分類するのは難しい面もありますが、簡単に整理したのが下記です。コロナ前に多かったのが「要保護の層」、コロナ禍以降増えているのが「生活困難層」「生活不安層」と区分できます。
増えた、と色々なところで言われていますが、どちらかというと「もともとあったものが可視化された」のでは、と大西さんは話します。
現在の最低賃金は1072円。
確かに数十年前と比べるとだいぶ上がっていますが、物価も上がっています。
非正規雇用の場合、週5日働いても18万8672円、手取りはここから4~6万円ひかれることを考えると、人によっては13万円近くなり、生活保護ギリギリの金額になることがわかります。
では正社員であれば恵まれているのか、と言えば、全国平均は下記で、同様に余裕がある状況ではないことがわかります。
実際に、貯金がないと答える世帯は13%、貯金が200万円以下と答える世帯は3割を超えています。そもそも構造として、フルタイムで働いていても生活が楽ではない人が社会にたくさんいる時代になっていると言えます。むしろこうした人々は自立しているとみなされ、生活保護基準以上の収入があるので法的な保障の対象にはなりません。自助努力や家族の支えて何とかするしかないのが現状です。
NGOで最貧国の支援をしていると、貧困世帯がいると言っても日本はまだ恵まれている、と感じるかもしれませんが、途上国とは違う性質の「しんどさ」があることを理解してもらえればと、と大西さんは話します。
こうした状況は、「新しい生活困窮者層」が可視化されたと言えるでしょう。しかし政策的な課題として取り上げられているかというと、残念ながらそうなってはいません。失業や無収入に対応するための「就業支援」や「リスキリング」のように労働収入を戻すための支援はありますが、労働収入が戻ったら貧困でなくなるのか、というとそんなことはなく、ワーキングプアの状態で苦しい状況が続く方が増えています。
こうした社会の構造を再認識する必要がありますし、低所得層に向けた家賃補助や給付型支援のような制度を考えていく必要があるのでは、と大西さんは話します。現在の制度のほとんどは昭和の時代に作られていますので、変えていく必要があるというのは本当にその通りですよね。
では「貧困」と、今回のテーマである「孤独・孤立」はどう関わってくるのでしょうか。経済的な問題は大きいですが、必ずしもそれだけではありません。
例えば、失業したらみんな貧困になるかというと、そんなことはありません。実家を頼ることができる、パートナーに十分な収入がある、医者や弁護士のように強い資格を持っている、貯金がたくさんあるなど、失業しても貧困に陥らずに済む人もいます。
ではどういう人が貧困になってしまうのでしょうか。
頼れる人間関係がない、ということが大きな要因であると、こうした課題に取り組んできた人たちは考えているそうです。
「貧困」という課題を、「経済的困窮」と「孤独・孤立」に分けて考えてみた図がこちらです。
必ずしも十分ではありませんが、「経済的困窮」については、様々な社会保障の仕組みがあります。他方で、「孤独・孤立」という問題については、自己責任や個人の生き方の問題とみなされ、対応策がとられてきませんでした。
良さ、悪さは一概には言えないものの、これまで私たちを支えてきた、家族血縁地縁といったものの機能や役割が縮小してきているのは間違いありません。こうしたつながりは、放っておくと得られないものになってきており、普通に暮らしていたら「孤独・孤立」に陥りやすい社会になってきています。
こうした機能の代替として社会保障やNPOなどの相談窓口があるわけですが、相談するのにも、スティグマの問題などがあり、問題が悪化するというループが起きてしまっています。
国で「孤独・孤立」について実態把握の調査を行ったところ、「一定程度以上孤独である」と回答した人が4割程度いました。社会的交流という項目でも、同居していない家族や友人と会って話すことがあるか、という質問に対して、「月1回程度以下」という方が4割程度という結果になったそうです。
こうした状況から、孤独・孤立はじわじわと社会に浸透している、と言えるのではないでしょうか。ただ「孤独・孤立」は、それ自体が社会に大きなマイナスをもたらしているというよりは、他の社会課題と結びついたときに複雑化・進化させてしまう性質のものだと考えているそうです。
※アメリカでは、飲酒や喫煙よりも死亡率が高いという調査もあるようですが…
人間の体でいえば、免疫が下がっていて、病気にかかりやすい状態に近いのでは、と大西さんは話します。
他の社会課題とセットになったときに悪さをしてしまうと考えると、「孤独・孤立対策」というのは、社会や個人の免疫力を上げていくような施策群と理解をして取り組んでいらっしゃるそうです。
最後に、大西さんが参与としてどういった活動をされているのか、お話しいただきました。大西さんは、2021年6月から参与として活動しており、下記はこの2年で実現できたことの一部をご紹介しています。
例えば、2023年5月には孤独・孤立対策推進法が成立し、6月に公布されましたが、これは行政としてはかなり速いスピードで実現したと言えるそうです。
昨年には全国版の官民連携プラットフォームを作り、そこでの議論の内容を実際の政策に盛り込むなど、現在の政府の施策の中では珍しいレベルで民主的なプロセスを大切にしながら政策立案を進めてこられました。
現在、内閣官房孤独・孤立対策担当室による孤独・孤立対策キャンペーン「大丈夫!あなたはひとりじゃない」が実施されています。本イベントは同キャンペーンの趣旨に賛同するとともに、NPO・NGOによる取り組みを発信する機会としても活用します。
参考資料:
<行政関連>
あなたはひとりじゃない:内閣官房 孤独・孤立対策担当室
https://www.notalone-cas.go.jp/
孤独・孤立対策推進法
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/suisinhou/suisinhou.html
孤独・孤立対策の重点計画
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/juten_keikaku/jutenkeikaku.html
令和5年孤独・孤立対策キャンペーン「大丈夫!あなたはひとりじゃない」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/pdf/230815_cam.pdf
<大西さん関連>
もやいブログ「参与として1年、『孤独・孤立対策』のこれから」(2022.06.17)
https://www.npomoyai.or.jp/20220617/8167
もやいブログ「『孤独・孤立対策推進法』国会提出」(2023.06.13)