Nピボレポート
11月2日(木)、「SDGs実施指針改定に向けた現状と課題~新田SDGsジャパン事務局長『SDGs未達成は破滅への道』」と題した勉強会をアドボカシーチームが開催しました。
ゲストの新田英理子さんが事務局長を務める一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)は、約150団体が参加、うちNPO・NGOが7割ほどを占めており、市民社会として、SDGsを推進したい人や団体が参加しています。
今回の勉強会のフライヤーで使っている写真は、G7広島サミット首脳会合を前に、今年4月に広島で行われた「みんなの市民サミット2023」に参加したときに撮ったもので、「誰も取り残さないSDGsを真ん中に」というメッセージが込められています。
新田さんの最初のメッセージは、「SDGsを活用しよう」ということ。「SDGsは達成するものであるが、NPO・NGOが活用しないともったいない」という立場で活動されています。
SDGsは「続かない社会」を「続く社会」にするもの、と新田さんは捉えており、その立場から以下の3つについてお話しいただきました。
今年9月16日から22日までニューヨークに出張されていた新田さんは、もともと日本NPOセンターという、NPO方制定に向けたロビー活動や、法律をどう活用するかを考える団体で20年間に渡って活動してきました。その際、何回かニューヨークに出張する機会があり、アメリカのNPOから学ぼう、という事業に関わっていました。20年ぶりのニューヨークとのことです。
ニューヨークにある国連本部で開催されたSDGサミットと関連会合について報告いただきました。国連・SDGサミット2023で発表されたことをまとめると以下の3点です。
日本では、人権の考え方がバージョンアップされることへの期待が高まるなど、SDGsとの関係性における理解をどこまで深めることができるかがポイントです。
国連総会では、各国首脳が3分間演説しました。日本からは岸田総理大臣が登壇し、SDGs推進本部長を務めていることや、誰一人取り残さない政策が強調されました。新田さんは、演説自体は歓迎しつつ、全体的には「危機的な状況である」という認識が共有されていた、と振り返ります。「日本では、SDGsが取り上げられ過ぎて何となく食傷気味になっているのでは」、「他にも大切なことがある、というような雰囲気であること」を危惧されています。
ニューヨークでは多様なステークホルダーが参加する公式会議、関連サイドイベント、首脳演説、気候や保健に関するサミット、国連総会、と盛りだくさんでした。日本での認識とギャップがあると感じた一方で、SDGs達成に対する危機感と、前向きな政策がしっかりと語られていることに勇気づけられた、ともお話しされました。
新田さんは、SDGsそのものを推進している市民社会のネットワークで事務局長を務めているため、特定の分野というよりも、それらをどのように市民社会としてつなげ、政府や国連など他のステークホルダーにどう届けるか、ということを考えてきました。そのため、今回ニューヨークに参加したメンバーで速報イベントも開催しました。
SDGサミット関連会合として、Global Peoples' Assemblyが開催され、宣言も出されたため、日本語仮訳もSDGsジャパンのサイトで公開しました。
https://www.sdgs-japan.net/single-post/gpa_declaration
国連でも毎年SDGsの進捗が報告されています。最新の「グローバル持続可能な開発報告書(2023)」のポイントは以下の通りです。
ニューヨークでは、国連経済社会理事会(ECOSOC)で働く日本人職員の方とも意見交換したそうで、「SDGs達成のための方策はすでにいろいろ書かれている。それをどう実行するかが重要」という言葉が紹介されました。
新田さんがニューヨークに出張する決め手となったのは、日本政府によるSDGs実施指針が4年に1度の改定時期を迎えていたことと、SDGサミットとして首脳が宣説すること、です。
SDGs実施指針とは、日本のSDGs施策の最上位行政文書のことです。日本にはSDGs法がないため、この実施指針に沿って、政府全体の政策やステークホルダーとの連携が推進されています。
SDGs実施指針を巡るこれまでの動きを振り返ります。
SDGsの達成期限は2030年であり、残り7年、つまり、今回の改定で実質的に達成できるかどうかが実質的に決まります。
SDGs推進本部は、総理大臣が本部長、各省庁の課長級が参加していますが、年2回しか会合が開催されません。その1ヶ月ほど前に、SDGs推進円卓会議が開催され、市民社会をはじめとするステークホルダーが参加しています。市民社会からはSDGsジャパン共同代表理事の三輪敦子さん、自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連さん、GII/IDI懇談会NGO連絡会(現グローバルヘルス市民社会ネットワーク)代表の稲場雅紀さんの3名。ユース代表も参加しています。
国内では、政府がSDGs未来都市を自治体SDGsモデル事業として選定しています。SDGsの認知度は90%と言われているので、SDGs実施指針が各地での取り組みを後押しするものになるために、ぜひ改定に意見を出してほしい、と新田さんは言います。
続いて、SDGs実施指針改定に向けたSDGsジャパンの活動についてご説明いただきました。先述の通り、2022年度からパートナーシップ会議への協力、政党・議員と市民社会との会合、政府と市民社会の意見交換会などを実施し、11月1日からパブリック・コメントが実施されています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=350000208&Mode=0
SDGsジャパンではより多くの市民に参加してもらおうと、意見提出ガイドも発表しました。
https://www.sdgs-japan.net/single-post/publiccomment2023
今回のSDGs実施指針改定案では、分量が20ページから本文8ページ、別紙5ページの合計13ページに減って、シンプルになっています。
SDGs実施指針改定案の構成は以下の通りです。
これまでの実施指針では、日本政府として8つの優先課題が設定されていましたが、今回はそれに代わって、5つの重点項目が挙げられています。「実施に当たっての取組」では、2025年にはVNRを発表して、SDGsの進捗をしっかりと報告することにも触れられています。別紙として、各ステークホルダーに期待される役割が書かれています。ポイントは、これまでの「新しい公共」が「公共的な活動を担う民間団体」に変わったこと、です。
改めて、SDGsの本質を理解する必要がある、と新田さんは言います。「誰一人取り残さない」は人権そのもの、続かない世界を「続く世界」にするための変革(transforming)が必要ですが、日本では持続可能であること(sustainablility)の話が主流になってしまっています。SDGsは国連に加盟する193カ国すべての国が承認し採択したので、使わない手はありません。採択から7年が経ち、理念から実践の重要性がますます増しています。市民社会組織同士の連携も重要、と締めくくられました。
少人数でのブレイクアウト・セッションでは、自己紹介、新田さんのお話を聞いての感想や質問を共有し、再び全体に戻って質疑応答を行いました。